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●インタビュー記事をご紹介。 
 

 ・外断熱について
 ・月刊住宅建築 2000年12月号 掲載
 ・『インタビュー:エネルギーの将来像を考えると、外断熱が本物になってくる』より
  建築資料研究社のご好意により、掲載を許可されたインタビュー内容です。
 

 ——  外断熱という工法は、いったい何を目指していくべきなのでしょうか。
     単純に技術があるから利用するということではなく、地球環境とどううまく付き合っていくか
    ということにつながるような気がします。
     前田さんはユニークな床暖房システムを開発されていますが、それを単純に設備とは考えてい
    らっしゃらないようですね。社会の目指すべき方向を、自分の技術で、家づくりの中で伝えてい
    こうとしていらっしゃるようです。そういう前田さんは、外断熱というものをどんなふうにとら
    えているんでしょうか。
 
 前田: 躯体を構成する物質の「熱容量」を利用するための手段が、外断熱だと考えています。
     断熱特性の数字だけでいうと変わらないのですが、例えばコンクリートの内断熱や木造の躯体
    内断熱とは格段に「特性が」違います。ただの断熱のやり方、工法の違いという単純なことでは
    なくて、躯体の持っている熱容量を全部使えるか、使えないかということなんです。
     私の前提として、太陽エネルギーを暖房に利用しようということがあります。地球に入ってく
    る太陽のエネルギーは、いずれ放射され宇宙へ逃げていってしまう。そういうしくみが地球の温
    度を一定にしているんですが、どうせ逃げてしまう熱ならば、ちょっと溜めておいて利用させて
    もらおうと。例えば太陽熱で30℃にされた材料が25℃に冷めるまでの間で「暖房」という仕事
    をしてもらうということです。建物のなかにそういう機能を持たせるのが外断熱です。
 
     いままでは、石油から発生させた熱をなんとか逃がさないようにと、断熱材を壁などにつっこ
    んでいただけでしたから、考え方としてはすごい飛躍だと思います。外断熱には躯体内の結露が
    出ないという他の利点ももちろんありますが。ただし、高断熱、高蓄熱にしてしまうと、夏場は
    たとえ直射日光が入らないようにしても、人体や照明など室内から出た熱が外に逃げずに溜まっ
    てしまうことに気を付けなければいけない。それらを逃がすためには通風しかないと思うんです。
    高断熱、高蓄熱にすればするほど、「夏を旨とすべし」が重要になってきます。
 
 ——  断熱と蓄熱とがいっしょになって、何か方向が見えてきたという気がします。今までの住宅は、
    熱的にはザルだったわけですね。
 
 前田: むかしの断熱のされていない家というのは、隙間だらけで、暖房がこたつや火鉢だったという
    こともあって、当然結露の問題も発生しなかった。しかし、もう少し暖かくしたいという人間の
    快適性への欲望を満たすことに始まり、また、使う石油をなるべく倹約したいということで、断
    熱をしたわけです。
     でも、特に木造の壁内断熱は、暖房機器の種類との関係もありますが、断熱をすればするほど
    結露の問題が出る。それを何とか防ぐために防湿層で湿気が壁内に入らないようにする、という
    具合に、断熱性能を追究すると、どうしても気密の問題になってくる。断熱特性の数字を上げる
    ということも、気密によってできる。気密をすると、当然のことながら換気を意図的にする、機
    械換気です。一般的にそれを嫌う人がすごく多いですけれど、気密の目的としてはあくまでも石
    油消費を減らすための一手段ということです。
 
     今までの延長が高断熱・高気密ですが、そこに熱容量を加えるということは、太陽エネルギー
    の利用を前提としているということです。
     太陽があたった場合、高断熱だけだったら、室温が上がりすぎて窓を開けることになりますが、
    熱容量を加えることによって、熱を溜めることができる。せっかく入ってきたものをわざわざ窓
    を開けて捨てるんじゃなく。特にコンクリートの場合、内断熱をして新たに熱容量を加えるとい
    うのは無駄な設計で、まずは躯体を利用することです。

 ——  木材も、それほどではありませんが一応熱容量がありますからね。躯体に、構造を保つという
    こと以外に、もう一つ新しい役割が加わったということですね。そう考えると、コンクリートの
    大きな面も貯金箱のように見えてくる。
 
 前田: そういうところから、発想するかたちのイメージもたぶん変わってくると思いますよ。好きな
    「かたち」だけではなくなると思います。
 
 ——  蓄熱ということは、実は昔からずっとやられてきたことですよね。
 
 前田: 熱容量が一番大きいのは地球です。だから地中の温度は一年を通して一定している。海の熱容
    量の影響も大きい。まさに熱容量のなかで人間は暮らしているんです。でも、石油が出たことで
    あたかも自分たちが全部コントロールできるんだという錯覚を起こしたんでしょうね。石油とい
    うのは、地球の中にあった、炭素を固定するシステムによってできたとも言える。非常に長期間
    かかって炭素を固定して、バランスをとっていたわけです。それを破壊したのが石油文明で、ま
    さにパンドラの箱を開けたような状態です。そこを認識しないと、結局省エネといっても何をし
    たらいいのか見えてこない。ただ倹約しなさいといったって、「いや、うちはお金があるからい
    いんだ」ということになればそれっきりですから。
 
 ——  そういった大きな話を、一戸の家をつくるという行為に連動させたい。
 
 前田: そう思います。
     むかしから社会性や自然環境といったいわゆる風土のなかで、それに適合していかに快適に過
    ごすかということを一生懸命積み上げてきたはずです。それが、西洋の異質な文明が入ってきて
    断絶してしまった。さらに戦後の経済成長で石油をふんだんに使用することが当たり前になった。
    設備に頼ることで、好きなかたちを考えるだけで建築が成り立ってしまうようになったんです。
    最初からエネルギー投入を前提にかたちを自由に考えるという時代は、もう終わりにしないとい
    けないんじゃないでしょうか。
 
     むかしの家は風土に適していましたが、だからといって、それをまたつくればいいんだという
    のは、違うと思います。都市化の状態や生活の内容、求める快適さも違いますから。

     しかし、むかしの家のマイナス面として、「暗さ」がいわれますけど、夏場の快適さを追究し
    た結果、太陽の輻射熱を避けるためにああなったので、暗さに意味があった。適当につくったら
    暗くなっちゃった、というのではないと思うんです。よく考えてみると、暗さの対極として今の
    住宅の明るさがあるような気がします。しかしなんでそんなに明るくするのかと聞かれると、答
    えられないけれど、なんでそんなに暗いのか、には、ちゃんと答えがある。そのへんにヒントが
    あるような気がするんです。それをやめたのは、ほんのここ何十年かであって、それまでずっと
    快適さと暗さが結びついていたわけです。
 
 ——  モダンデザインは、そういうものからの乖離を追求していたような気がしますね。たとえばソ
    ーラーハウスなど自然エネルギーを取り込もうとすると、ある程度かたちが決まってきますが、
    モダンデザインの洗礼を受けた設計者は、それを「制約」として捉える傾向があると思います。
 
 前田: そうですね。今までは石油を投入することが自由だという前提があったから。しかし大気中の
    二酸化炭素は確実に増えていて、自然のシステムではもう吸収しきれないところまできている。
    その中で、人間が生活する上で大きなウエイトを占める、「家」というものをどうつくるのか。
    設計する人たちの意識は、変わらなきゃいけないんじゃないかと思います。
 
 ——  もう少し先をみてほしいですね。
 
 前田: 住宅は、今でさえ少なくとも2、30年の寿命があるわけですが、20年先に現在のような石
    油エネルギー社会が続いているかどうか。エネルギー事情は全然変わっていると思います。
     自動車メーカーは、3年後に燃料電池の車を出すといって一生懸命やっています。つまり、最
    終的には水素エネルギー社会になるという前提があるんです。私もそうなると思っています。燃
    料電池は、水素を空気中の酸素と結合させて、エネルギーを採りだす。その際排出されるのは水
    だけです。水から水素と酸素に分離するためのエネルギーはどうするかというと、太陽電池で無
    限の太陽のエネルギーを使う。そういうことを前提にして、20年先を見据えた家をつくるとし
    たら、何ができるだろうと考えなきゃいけない。
 
 ——  今の時代、全体を把握するのがたいへんですね。
 
 前田: 娘が設計事務所に勤めているものですから、これからの設計家はたいへんだぞ、という話をす
    るんです。まずは人間学の大家にならなければいけない。同時に環境学、それから建築学、そし
    て当然芸術に通じなければなれないんだと。
     それと、これからエネルギーのこと、つまり熱のことが最大の問題になるのだから、基本とし
    て物理がわからなくては何も始まらないよって、人間がどんな状況で快適性を感じるか、という
    追究も足りないと思うんですよ。本来は地球環境を抜きにしては考えられないはずです。
     人間の生理作用と快適さというのが、断熱のことともあまり結びついていないんです。

     石油消費の少ない、快適な住宅をどうつくるかといったときに、日本の家は昔から木と紙と土
    なんだからそれでいいんだといっても、住んだ人が「寒くてストーブ買っちゃった」というので
    は意味がない。
     たとえば太陽のエネルギーを床からため込むのに、むかしは桧の縁甲板だったからそれでいい
    かというと、それはできない。新しい時代にあった新しい床部材が必要になると思うんですよ。
    人間はむかしの暮らしにはもどれないんですから、しょうがないですね。エスカレートする欲望
    を抑える教育の必要性もあるんだろうけれど、逆に環境をよくする方向で欲望を満足する技術が
    あったっていいと思うんです。
     そういうふうに、理念としての方向さえきちんと決めてしまえば、DNAを解析したり、太陽か
    らの電磁波エネルギーを電気に変換できる時代ですから、たぶん技術や新しい材料も見つかる。
     みんな太陽からのエネルギーシステムの中で生きているんだ、という共通の認識にもどって、
    まずはそれを崩さないようにしようと。そのなかで自分の主張を表現したときに、はじめて地に
    足の着いたデザインになると思うんです。好みによるデザインではなくて。先ずは「風土をもっ
    て語らしめる」ではないでしょうか。
 
 ——  外断熱というのが、そこまでの意味を含んでいるんだと…。
 
 前田:「外断熱」という言葉があること自体がまだ過渡現象なんですね。内断熱にしようか、外断熱に
    しようか迷ったり、外断熱にしにくい形のため悩んだり、現在、設計家はいろいろ試行錯誤して
    いると思います。
     まだかたちが優先で、断熱は後からなんでしょうね。これから外断熱を当たり前のこととして
    発想していくと、太陽エネルギーのことを取り込んだかたちのイメージになっていくでしょうね。
    そうなると、外断熱が本物になってくると思いますよ。
     ただし、根本的には住む人が変わらないとね。設計家だけが変わっても解決しない問題ですけ
    ど、家づくりを通して住まい手をそこまで持っていけたら、すごいですよね。